近年の訪日外国人旅行者の動向の特徴として、
- 首都圏から地方へ
- 団体旅行から個人旅行へ
- モノ消費からコト消費へ
の3つがあげられます。
ここでは、このような動向を踏まえ、迎える側はどのように外国人観光客をおもてなしすべきか、すなわち、インバウンド接客の基本についてお話します。
インバウンド接客の基本を簡単にまとめますと以下の4つになります。
- 外国人観光客の気持ちになる
- 異文化を理解する
- 地域の魅力を再確認する
- 簡単な英語でも十分
以下で詳しく解説します。
自己紹介
大学の教員で、インバウンドや英語教育を専門に研究を行っており、英会話関係の書籍や英語の論文を多数発表しています。海外生活通算6年以上。また、観光庁の「観光人材のインバウンド対応能力強化の研修会」の認定1級講師で、英語の通訳ガイドの資格を持っています。
近年のインバウンドの傾向
最初に近年のインバウンド、すなわち訪日外国人旅行者の動向について簡単に解説します。
2019 年に我が国を訪れた外国人旅行者数は、過去最高となる 3,188万人を記録するとともに、その旅行消費額も過去最高の 4 兆 8,113 億円となり、訪日外国人旅行者の勢いは加速を続けてきました。
観光は日本の経済を支える重要な産業となりつつあります。
そのような中府は、2030 年に訪日外国人旅行者数 6,000 万人、訪日外国人旅行消費額 15 兆円など新たな目標とその目標達成に向けた各種施策を盛り込んだ「明日の日本を支える観光ビジョン」の実現に向け、様々な施策に取り組んでいます。
2020 年においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、訪日外国人観光客が激減しましたが、国際観光需要は必ず回復すると思われます。
ところで、近年の訪日外国人旅行者の動向を見ると、大きく変化していることがわかります。
首都圏から地方へ
2019年は東京・京都・大阪などでは日本人が宿泊するのが難しいといわれるぐらい外国人であふれていました。
それに伴い、徐々に、地方に外国人観光客が流れています。
特に、リピータといわれる何度も日本を訪れている外国人は、ありふれた観光地よりも地方の自然豊かな観光地を好む傾向があるようです。
団体旅行から個人旅行へ
次に、あげられる特徴として団体旅行から個人旅行への移行です。
2012 年には観光・レジャー目的の訪日旅行のうち個人旅行は約 6 割だったのが、2018 年のデータでは、約 8 割となっています。
また、兵庫県の城崎温泉をご存じでしょうか。
城崎温泉は、訪日外国人旅行者の団体客ではなく、個人客をターゲットにしたことにより、大きな成功を収めたといわれています。
団体客をターゲットにした場合、国レベルにおける政治的問題に左右されることもあり、大きなリスクを負うことにもなります。
モノ消費からコト消費へ
3つ目の特徴として、モノ消費からコト消費への移行があげられます。
一時は中国人による爆買いが話題になりましたが、近年は何かを買うためからから、何かを経験するために来る訪日外国人が増えました。
そのため、豊かな自然や文化、生活に、直接深く触れたいというニーズが高まっており、訪日外国人が地方へ地方へ興味を持ちはじめております。
これまでは、ほとんど外国人が訪問しなかった地方への訪問も多くなりました。
そのような地域の魅力を伝えるには、宿泊業者はもとより、レストランや飲食店など、観光に携る様々な事業者やその従業員が鍵となってきます。
外国人に対するインバウンド接客の4つの基本
上記のインバウンドの傾向をもとに、外国人観光客にどのようなおもてなしをするべきか、インバウンド接客の基本について解説します。
外国人観光客の気持ちになってみる
ホスピタリティとは、所作や動作にとどまるのでなく、お客様をお迎えするという心そのものが大切です。
ホスピタリティとはお客様が望んでいることが何かを探り、それに応えることです。
外国のお客様は、日本人とは異なる文化背景や生活習慣をもっています。
日本に来て、とまどってしまう、間違えてしまう、などのトラブルが起きることがあります。
そのほとんどが、お客様には全く悪意はなく、知らなかったがためのことが多いです。
つまり、一番大切なことは、お客様である外国人旅行者の目線で考えることです。
同じ問い合わせでもお客様によって対応は異なります。
100 人お客様がいれば、答えは 100 通りあるということです。
山城屋の事例
大分県の湯平温泉「山城屋」は「トリップアドバイザー」で、日本国内に約4万件ある旅館の中から宿泊施設満足度ランキング・日本の旅館部門で全国第3位に選ばれたことがある小さな旅館です。
現在は、旅館の宿泊客のうち外国人が8割を占めています。
ぜこのような家族経営型小規模旅館がこれほど訪日外国人観光客に人気がでるようになったのかいいますと、「安心感こそが最高のおもてなし」と考え、徹底して外国人の気持ちになって不安を安心感に変えるサービスを行ってきました。
- メールでの問い合わせに4ヵ国語で対応
- 客室のテレビで観光案内
- SNSを使った自社予約への誘導
- 宴会場に机と椅子を導入してレストラン形式に
- 館内全域でWi-Fiを受信
- 休憩スペースに県内各地の多言語パンフレットをなるべくたくさん取り揃えている
- 入浴やトイレの使い方を動画で説明
- 韓国のお客様は、「氷水」を好む、中国のお客様は「お茶」や「さ湯」を好む、など国別の傾向をふまえた対応
- 翌日までのスケジュールのアドバイスを個別に行う
さらに、以下のような動画を外国語で作成しています。
- 日本旅館でのおくつろぎスタイル
- 浴衣の着方
- 湯平駅での降車方法(博多→由布院→湯平の場合)
- 湯平駅からの乗車方法(湯平→由布院の場合)
- 高速バスをご利用の場合
浴衣の着方の韓国語の動画です。
トイレットペーパーの切り方まで詳しく説明しています。
山城屋では、このように外国人のお客様が必要としていることを考え、国別・個別に異なる対応をしています。
詳しい内容はこちらをご覧ください。
インバウンド成功事例【旅館】大分県湯平温泉の山城屋 満足度ランキング全国3位!
山城屋は書籍も出版しています。
異文化を理解する
海外旅行の思い出は、観光地巡りだけでなく、滞在した土地の人々の温かいおもてなしや、地域の人々
との心の交流が最も心に残る思い出になるのではないでしょうか。
コミュニケーションはキャッチボールです。
つまり、外国のお客様との交流は one-way (一方通行) ではなく two-way communication (双方向のコミュニケーション)です。
日本の文化や日本料理を伝えるだけでなく、相手の国の文化や料理について関心をもち学ぶなどなど、お互いの文化の違いを確認することで、私たち自身も異文化を体験できます。
その異文化を理解することを海外旅行に行ったつもりで楽しみましょう。
ただ、言葉だけでなく、習慣など文化によりかなり異なりますので、ある程度理解しておく必要があります。
異文化理解についてもっと学びたい方はこれらの本が参考になります。
ジェスチャーの違いもしっかり理解
ジェスチャーは世界共通のわけでなく、国によって異なります。
必要最低限の違いは接客に携わる方は覚えておいたほうがいいでしょう。
日本と海外のジェスチャーの違い【世界のジェスチャーを学ぶ】に簡単にまとめてありますので、目を通してください。
上記のような動画もあります。
気軽に見れますので、ジェスチャーの違いを学んでみてください。
地域の魅力を再確認する
日本人にとって何でもない風景や生活習慣が実は、外国人にとっては新鮮であるということはよくあります。
たまたま掲載された1枚の写真が話題を呼び、予期せず一気に有名になり、外国人観光客が押し寄せるということはSNSが発達した現代ではよくあることです。
ですので、まずは自分の地域の魅力を再確認してみましょう。
自分が本当に好きなものについて話すとき、人の目は輝き、言葉に力がこもり、その情熱というのは、人に伝わります。
自分たちの地域の素晴らしさを知ってもらいたいという情熱を持てば、きっと外国人のお客様にもその魅力が伝わります。
時々調査で温泉地を訪問すると、「外国人は、とにかくマナーがだめだから、来てもらいたくない」「温泉以外何もないから外国人が来てもしょうがない」という声を耳にします。
ただ、大手旅行サイトのアンケートで「日本で一番印象に残っていること」の問いに「日本旅館での
宿泊」が常に上位にきます。
旅館で温泉に入るというだけで、多くの外国人の観光客はとても満足しているのです。
以下でいくつか事例を紹介します。
6年間で外国人が45倍に増えた城崎温泉
城崎温泉(きのさきおんせん)は、兵庫県豊岡市城崎町にある温泉です。
城崎温泉は「浴衣を着て、下駄を履いて,7つの外湯をそぞろ歩き」ということで有名ですが、6年間で外国人旅行者数を45倍に増加させたインバウンドの優秀温泉地です。
実際に行ってみると、箱根や草津などの温泉と比べても規模もそんなに大きくなく、小さな旅館しかなく、なんでここがそんなに有名になったのかという疑問を持ちます。
正直言って、普通の銭湯のような小さな温泉施設が7つあるだけで、そこに浴衣と下駄をはいてそぞろ歩きということを掛け合わせただけです。
どこの温泉地でもできそうなことです。
ただ、地域が一丸となって、外国人がスムーズに旅館にたどり着け、気持ちよく過ごせるようにあらゆるところで工夫されていました。
つまり、巨額な資金をつぎこんで新しいアトラクションや施設などは作らず、今ある資源を最大限に生かしながら、様々な工夫を凝らしてきたことが城崎温泉の勝利の要因といえるでしょう。
詳しくはインバウンドの成功事例【温泉】兵庫県外国人に人気の城崎温泉 をご覧ください。
両国などの相撲部屋で力士の稽古風景を見学
つぎに、相撲部屋というただの練習風景がいつもの間にか観光スポットになった例をご紹介します。
外国での相撲人気は大きく、相撲力士を一目見たいという外国人が増えましたが、大相撲は年6 回の限られた期間のみです。
そのため、相撲部屋を見学する外国人観光客が現れました。
最初は、マナーを守らない外国人の見学者は、力士にとって迷惑であると言われていました。
その後、相撲部屋によっては、ルール作りなどを行い、エージェント手配による有償の見学ツアーなどを行っています。
なお、上記の動画はThe Japan Timesが制作したものですが、1年間で248万回の視聴です。
このことからも多くの外国人が相撲部屋の1日に関心を寄せているのがわかります。
このように、今の時代予期せず何気ない日常にいきなり訪日外国人が押し寄せるということもあります。
それらをチャンスととらえ、しっかりとビジネスにつなげていきましょう。
インバウンド関係の方におすすめ本10選【マーケティング・成功事例】ではインバウンドの成功事例やマーケティングに関する書籍を紹介しています。参考にしてください。
完璧な正しい英語でなくてもいい
インバウンドの現場で実際に必要とされる英語は、難しい文法や作文ではありません。
必要な情報をきちんと伝えられればいいのです。
ぜひ、片言の英語でもいいですので、ご自分の地域の魅力を発信してみましょう。
流暢な英語よりもむしろ、全身を使っての一生懸命な対応が、お客様の心に残り、感動を生む場合もあります。
私は「トリップアドバイザー」の英語のレビュー分析を研究で行ったことがあります。
もちろん評価の高い(星が5つ)レビューには、従業員が英語がしゃべれてよかったという記述が多くみられましたが、「英語はしゃべれないけれども一生懸命伝えよう、コミュニケーションしようというしてくれて本当にうれしかった」というレビューがいくつもありました。
一方で、星一つのレビュー(最も評価が低い)には、「まったくコミュニケーションする気がないのか、滞在中従業員は一言もしゃべらなかった」という感想がありました。
もちろん英語が喋れるにこしたことはないですが、それ以上にもっと大切なものがあります。
それは、英語力以上に外国のお客様とコミュニケーションしたい、おもてなししたいという気持ちです。
「心からの歓迎のおもてなしをしたい」「伝えたいという気持ち」という気持ちを身振り・手振りを交えた全身の表現で伝えるなら、必ず外国人のお客様も分かってくれます。
これこそが、国際交流の真髄です。
ただ、接客に関係する方は必要最低限の英語をみにつけておくと外国人の方もとても喜ばれます。
各業種別の接客英語を学ぶ教材を作成しました。以下のリンクにありますので、ぜひご利用ください。
また、接客英語を本格的に学びたい方には職業別英会話のカリキュラムのある産経オンライン英会話をおすすめします。
詳しくは職業別英会話が学べる産経オンライン英会話か以下の公式サイトを参考にしてください。
参考文献
地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修 基礎知識
おわりに
ここでは外国人観光客をどのようにおもてなしすべきか、すなわち、インバウンド接客の4つの基本について解説しました。
まとめますと以下の4つになります。
- 外国人観光客の気持ちになる
- 異文化を理解
- 地域の魅力を再確認
- 簡単な英語で
ところで、多くのインバウンドの現場でポケトークが使われています。
特に、英語以外の言語を話す外国人の方も多いですので、外国人観光客が多い地域で接客に携わる方は必需品です。
ただ、ポケトークを使ったとしてもおもてなしの心は忘れないように。
ポケトークの詳細は接客業にはポケトークが必須!または下記の公式ウェブサイトを参考にしてください。
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ただ、アマゾンや楽天の場合は、偽物という可能性などもありますので、公式サイトで購入されることをおすすめします。
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